成人病の運動療法
運動は心臓・肺・筋肉の機能を強化するほか、肥満を改善し、血糖や血圧を下げ、またHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やす効果があり成人病の予防・治療に有効です。しかし、重い心臓病、腎臓病、肝臓病、関節障害などがある場合、また、熱、睡眠不足、二日酔いなど体調不良の場合に運動することは危険です。また、糖尿病・高血圧・肥満・高脂血症の場合でも、重症の患者さんでは、運動療法の効果が期待できないばかりでなく、かえって害になります。このように運動は「両刃の剣」の性格を持っていますので、実行にあたっては必ず主治医にご相談ください。
運動療法を行うときの一般的な条件は?
体調が良好で、以下のような自覚症状や病気がないことが、運動を安全に行うための一般的な条件と考えられています。これ以外の場合(例えば、軽い自覚症状がある、安静時の心電図に軽度の異常がある、血圧や血糖がかなり高いなど)には、あらかじめ試しに軽い運動をしてみて症状や検査結果が悪くならないことを確かめなければなりません(運動負荷試験)。また、運動療法の条件に当てはまる場合でも、中年以降(40−50歳以上)の方はなるべく運動負荷試験をしてから、実際の運動療法を開始するほうが良いでしょう。
運動療法を行う条件
1 自覚症状
2 現在の病気
糖尿病、高血圧症、高脂血症、肥満症の運動療法を行う具体的な条件は?
行っても良い | 場合によっては行っても良い | 行ってはいけない | |
糖尿病 | 空腹時血糖 110−139 mg/dl | 140−249 mg/dl | 250 mg/dl以上
尿ケトン体陽性 尿蛋白陽性 増殖性網膜症 |
高血圧症 | 血圧 140−159/90−94 mmHg | 160−179/95−99 mmHg | 180/100 mmHg以上
心拡大・腎障害 |
高脂血症 | 総コレステロール 220−249 mg/dl
中性脂肪 150−299 mg/dl |
総コレステロール 250 mg/dl以上
中性脂肪 300 mg/dl以上 |
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肥満症 | BMI 24.0−29.9 | 下肢障害 | BMI 30以上 |
具体的な運動方法を教えてください
1 あらかじめ
それまで運動をしていなかった方はいきなり運動療法を始めるのではなく、1−2週間かけて少しずつ体を動かすようにしてください。
2 運動の前後に
準備体操、整理体操は十分に行ってください。
3 運動の種類
しっかりと呼吸しながらなるべく全身を使う運動、たとえば、歩行、ジョギング、なわとび、水中歩行、水泳、サイクリング、エアロビクスなどが良いでしょう。なかでも、歩行はいつでも、どこでも、ひとりでも、簡単に、比較的安全に(交通には十分注意してください)できる運動として、運動療法を始める際に理想的なものです。運動療法のため歩行する場合には
などに留意してください。
なお、息を止め、りきむような運動(重量挙げ、エキスパンダー、ブルワーカーなど)は少なくとも運動療法の初期には好ましくありません。特に、このような運動は血圧をあげるので、高血圧の方にはおすすめできません。
4 運動の強さ
最高にきつい(これ以上は不可能)運動を100%とした場合、成人病の予防・治療のためには40−60%程度の運動が良いと考えられています。なお、当初は30−40%の運動から始めてください。
この運動の強さを測る方法を2つ紹介します。あくまでも無理をしないように心がけてください。
1)自覚症状による判断法(ボルグ スケール)
「楽 − ややきつい」の範囲(約50%の強さ)で運動する。
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2)心拍数(脈拍)による判断法
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5 運動の時期と時間
一般に空腹時や食直後を避け、食後1−2時間に行うのが良いでしょう。
一回の運動時間は10分程度からはじめ、なるべく30分以上行うようにしましょう。
週に2回以上、なるべく3回以上行いましょう。
歩数でいうと、1日に8000歩以上必要です。
運動は長く続けて初めて効果がでてきます。糖尿病や肥満症の場合でも、運動療法の目的は、必ずしも毎回の運動で直接ぶどう糖や脂肪を燃やすことではありません。長期的な運動で筋肉量や筋肉を流れる血液の量を増やし、またその他全身の細胞を活性化することでエネルギー消費を円滑にすることが目的です。
この意味でも、長く続けることのできる無理のない運動療法を心がけてください。
医療機関によっては患者さんに「運動療法処方せん」を発行する場合もありますので、主治医におたずねください。